裁量労働制とは?メリット・デメリットや他の制度との違いも徹底解説
近年の日本は少子高齢化社会となっていて、社会で働く人の数も減ってきています。またリーマンショックなどの不況によって人員が削減されるなど労働者の数が少なくなってきているうえに、経済を立て直すために仕事が増えてきたことがあり多くの人々が過重労働となってしまったことがあります。そのために仕事を辞めたり最悪では自殺をする人が出てきて、国をあげて働き方を変えていかなければならないということになりました。
そこで取り組まれたのが「働き方改革」です。それは50年後も1億人の人口を維持して誰もが活躍できる社会になることを目的とし、多様な働き方ができるようにするための改革です。ここでは、働き方の中で重要な労働時間に関する制度のひとつ、「裁量労働制」について述べていきます。
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、昭和62年の労働基準法改正の時に導入され、平成10年に見直された制度です。法労働者と雇用者で契約された労働時間よりも実際に長く働いても短くなっても、契約した時間分を働いたということにする「みなし労働時間制」のひとつです。
実労働時間に関係なく契約した一定時間を働いたということになるので、出勤時間や退勤時間を記録したり多く働いた分の残業代が発生することがありません。そのため賃金は契約時の労働時間分であらかじめ計算された賃金が支払われることになります。
するとどれだけ残業をしても残業代は出ないのか、という問題が生じてきますが、休日労働でみなし労働時間が法定の8時間を超える場合や22時から5時までの深夜労働の場合は割増賃金として請求することができます。
裁量労働制の適用職種は意外に少ない
裁量労働制は平成10年に見直され適用範囲が広がりましたが、それでも適用する職種は限られています。その職種は大きく2通りに分けられていて、1つは「高度な専門的な業務を行う専門業務」、2つ目は「企画を行う企画業務」です。専門業務の例としては、研究者やデザイナー、弁護士などの職種があります。
これらの専門知識を要する業務に関しては、雇用者が業務の内容や時間の配分などについて指示するようなものではなく、労働者自身が決めて薦めていく業務です。企画業務というのは人事や広報、経理などに関わる業務で、これらは会社の運営に大きく影響をする仕事です。このように雇用者が指示できない仕事や会社運営に関わる仕事を行っている場合に、裁量労働制が適用され、専門業務と企画業務以外の仕事には適用されない制度となっています。
裁量労働制と他の制度の違い
労働時間に関して裁量労働制とよく似た制度はほかにもありますが、それらとどのように異なるのかを説明していきます。
高度プロフェッショナル制度との違い
高度プロフェッショナルということなので、高度な専門知識を持っていて年収1075万円以上あるアナリストやコンサルタント、金融商品の開発者、士業などを対象とした制度です。それらの対象者は、雇用者が指示することができず労働者の裁量で労働時間が決められるのは、裁量労働制の時の対象者と同じですが、裁量労働制と異なる点は、休日や深夜の割増賃金がないことです。
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門性をもって行う業務なので、労働時間ではなく労働能力に対して高額な報酬が支払われます。
事業場外みなし労働時間制との違い
事業場外というのは、在宅勤務や直行直帰をする営業など、事業所以外の場所での労働のことです。このような場合は、雇用者が労働者の労働について監督をすることができません。裁量労働制と同じようにみなし労働時間を設定して給与計算をしますが、裁量労働制と異なるのは、適用範囲が限られていないということです。
つまり、どんな職種でも事業場外で労働し雇用者の監督ができない場合は適用されます。それと裁量労働制の場合は休日と深夜における残業は割増請求ができますが、事業所外見なし労働時間制の場合は、休日と深夜だけでなく時間外労働にも割増支払いが行われるということも異なる点です。
みなし残業制度との違い
この制度は、労働者と雇用者の間で残業時間が契約で交わされている場合に適用され、実際に契約の残業時間よりも少なかった場合でも残業代が支払われ、多くなった場合には超過分も支払われるという制度です。
裁量労働制と同じところは、実際に短くても長くても決められた分が支払われるという点で、異なるところは、みなし残業制度は労働時間内でなく残業時間を対象としているところです。
フレックスタイム制度との違い
フレックスタイムとは会社が決める労働時間さえ合っていれば、出勤時間や退勤時間を変えることができるという制度です。例えば労働時間が8時間と決まっている場合、休憩1時間を除いて9時から18時まででも良いし8時から17時でも良く、13時からの出勤なら22時まで働くことになります。
フレックスタイムの場合は、何時に出社して何時に退勤するかといういくつかの型の勤務時間をある程度労働者側が決めることができるという点が裁量労働制と共通しています。
しかしフレックスタイム制には「みなし労働時間」が定められていないので、決められた労働時間よりも早く終わるということができず、退勤時間まで働かなければいけないというところが裁量労働制と異なるところです。
裁量労働制を導入するメリット・デメリット
裁量労働制を導入すると雇用者側は人件費の管理がしやすくなるというメリットが生まれます。みなし労働時間を設定することで、毎月の人件費が決まって食えるからです。また、労働者側にもメリットがあります。裁量労働制が適用されるのは、専門知識を持った業種や企画業務です。これらの業種は限られた時間の中で、業務を遂行することは困難が伴います。
アイデアや企画を出すのに時間に縛られると良い結果が得られない可能性があります。それは企業にとっても良い商品やサービスが生まれないことにもなるので、労働者が時間を気にせずにリラックスした状態で仕事に臨むことができるということは、裁量労働制を導入するメリットといえます。
デメリットとしては、雇用者側からすれば、企画者も入れて会議などを行う場合、時間の都合が把握できず会議の時間を決めにくいという点があります。また社員全員が同じ時間で働くわけではなくなるので、チームワークが悪くなって生産性が下がってしまう可能性もあるということです。
労働者にとっては、休日と深夜以外は残業代が出ないので、そんな中で業務を遂行しなければならないということがデメリットといえます。
裁量労働制を導入するには?
専門型の裁量労働制を導入するにあたり、雇用者と、労働者の過半数で組織作る労働組合か過半数の労働者を代表する者が書面で労使協定を締結することになります。そこで、裁量労働制の「対象となる業務」と「雇用者が具体的な指示をしないこと」、「みなし労働時間」と「有効期限」を決めて「健康や福祉の確保や苦情に対する措置」を行うことを約束し、書面で記録に残して有効期間中とその後の3年間保管をすることが決められています。
その書面で決めた約束が労使協定で、それを所轄の労働基準監督署に提出しなければいけません。企画型の場合は、「対象業務」と「対象労働者の範囲」、「みなし労働時間」を決め、「健康福祉と苦情に対する措置」と「本人の同意の取得と不同意者の不利益取り扱い禁止に関する措置」を約束し、「有効期限」を決め、その決議を労働基準監督署に届けることが必要です。
企画型の場合は労使委員会を設けて、これらの事項について5分の4の賛成で決議されます。これらのように導入するにあたり、専門型総量労働制ではまず労働者と労使協定を結ぶことが必要で、企画型では労使委員会を設ける必要があります。
日本における裁量労働制の問題点
日本では、働き方改革が行われている中で裁量労働制も勧められています。休日や深夜以外の労働時間以外の残業については残業代が出ない裁量労働制ですが、何らかの問題はないのでしょうか。
長時間労働を生みやすい
裁量労働制では、専門性の高い業種や企画などを行う業種に対して適用されますが、それは労働時間よりも仕事の成果が評価されるからです。しかしこのように評価される場合、仕事を達成して評価を高めようとする人ほど、時間をかけてでもしっかりと仕事をしようとしてどうしてもみなし労働時間を超える長時間労働になってしまう可能性が高くなります。
雇用者が労働者の業務についての大変さについても理解し、決まった労働時間内にできるような業務を割り当てていればそこまで長時間働かなくても良くなりますが、そうでない場合、労働時間に見合わない量の仕事を指示してしまう場合には、労働者が長時間働くことになり負担をかけてしまうところが問題点といえます。
対象業務外の仕事も裁量労働とみなされる
対象業務と対象業務外の仕事を掛け持ちしている場合に、みなし労働時間内に業務が終わらないとしても裁量労働制が適用されて残業代が出ないという問題があります。雇用者が、対象業務なのかそうでないのかということをはっきり区別して業務を割り当てなければ、対象業務以外の仕事で決められた労働時間より長く働いても、一定の給与しかもらえないという問題が出てきます。
裁量労働制まとめ
裁量労働制を導入することによって、会社側にも労働者側にもそれぞれメリットとデメリットが生じます。会社側にとっては一定の人件費になることで経営がしやすくなり、時間を気にせず企画や専門業務をしてもらえるので、良い結果を生み出せる可能性が高くなります。
労働者にとっても専門性が認められたり、時間を気にせず企画業務が行えるようになることで、生産性が高まるので、会社にとっても労働者にとってもメリットがあります。これらのようなメリットはあるものの、裁量労働制を導入することで、労働者の労働の把握や会社全体で何かをするときの時間調整などが困難になったり、残業手当のない中で長時間働く労働者が出てくる可能性もあります。
このようなことにならないよう、裁量労働制を導入した後は雇用者側はより労働者の管理を徹底する必要があり、指示は出さなくてもどのような労働状況なのかということを把握しておくことが大切になります。
裁量労働の管理や勤怠を簡単に管理したいなら勤怠管理システムの導入がオススメです。