OJTとは?意味や目的を徹底解説

最終更新日 : 2023-02-24 Box

企業が取り組む人材育成にはいくつかの手法がありますが、多くの企業で行われている育成手法がOJTです。

ここでは、目的やメリット・デメリット、進め方などOJTで人材を育成していく上で押さえておきたい基本的な情報を解説していきます。

OJTとは?

OJTとは「On The Job Training」の略で、企業や組織の中で実際の業務に取り組みながら行う人材育成手法を指します。

ビジネスパーソンであれば一度は耳にしたことがある方がほとんどかと思いますが、新入社員や部署異動してきた社員に対して業務に必要なスキルや知識を上司や先輩などがマンツーマンを基本として指導していきます。研修やマニュアルでは習得するのが難しい、実戦で役立つスキルや知識が身に付くのが特徴です。
OJTの起源は第一次世界大戦時のアメリカとされており、膨大な数の軍人を育成するために生み出された「4段階職業指導法」がベースになっています。

この指導法は、「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・追加指導)」の4段階の工程で構成されています。OJTにおいてもこの4つの手順で育成していくのが基本です。

また、OJTは日本では高度経済成長期に導入する企業が増えたと言われていますが、現在に至るまで多くの企業で効果的な人材育成手法として活用され続けています。

OJTの目的

OJTを実施する主な目的は、業務効率の向上・即戦力の人材育成・不安の解消・採用力の強化の4点です。

ここからは、各目的について詳しく解説していきます。

1.業務効率の向上

職場における社員の業務効率化を図るには、信頼関係が構築された指導担当者からの的確なフィードバックが必要だとされています。この点、OJTはマンツーマン指導が基本の育成手法であり、教えられる側は指導担当者からフィードバックを得ながら業務に必要なスキルや知識を学んでいきます。

関係性が薄い人との関わりを気にすることなく、安心して指導を受けることができるのはOJTが持つ特徴のひとつです。
また、教える側にとってもマンツーマン指導が基本のOJTに取り組むことで、改めて業務そのものの目的や部署間の流れなどを振り返る機会になります。

業務や組織に関して深く掘り下げて考えることは、時間管理や人材マネジメントなどにもつながっていくため、結果として組織全体の業務効率向上につながっていきます。

2.即戦力の人材育成

OJTに取り組む目的のひとつが、即戦力の人材育成です。

OJTは実務を通して指導する育成手法なので、実際の業務で培われた知識やノウハウを効率的に学ぶことが可能です。また、企業で活躍するためには業務に必要なスキルや知識を身に付けているだけでは不十分で、現場で使われているツールを使いこなす能力、同僚とのコミュニケーション能力、自ら仕事を生み出して取り組んでいく行動力なども必要です。

OJTでは、実務を通して一人ひとりに合わせた指導を行うため、現場で一人前の社員として活躍していくために不足している部分をしっかりと伸ばしていくことができます。

これにより、即戦力になる人材を効率的に育成していくことが可能です。

3.不安の解消

新入社員や部署異動してきた社員は、新しい職場での業務や人間関係に不安を抱えているケースが大半ですが、OJTはこのような不安の解消にも効果的です。

新入社員や部署異動してきた社員は、業務そのものはもちろん人間関係や組織特有の習慣への理解など様々な不安を抱えています。社員が抱える不安を取り除くことは、生産性の向上や業務の効率化に不可欠な要素となりますが、OJTでは育成対象者一人ひとりに上司や先輩社員などの指導担当者が付くため、些細な不安や疑問でも相談しやすい環境が整います。

加えて、指導担当者とのやりとりは他の社員とのコミュニケーションにも役立つので、組織全体の人間関係が円滑になる可能性も高まるでしょう。

4.採用力強化

OJTは、上記の通り即戦力の人材を育成するのに効果的な手法ですが、業務に必要なスキルや知識を効率的に身に付けることができれば育成対象者のモチベーション向上につながっていきます。加えて、丁寧なサポートや的確なフィードバックが受けられるとともに、社員同士の円滑なコミュケーションが実現しやすいOJTは、エンゲージメント低下の予防にも効果的です。

業務に対するモチベーション向上を図り、エンゲージメントの低下を防ぐことができれば、職場への定着率は自ずと高まっていくでしょう。

さらに、OJTが社内に定着すれば効率的なスキルアップが可能な職場環境であることを求職者にアピールすることができるため、採用力の強化にもつながっていきます。

OJTのメリット

OJTには、教えられる側だけでなく教える側にもメリットがある育成手法です。

ここからは、指導を受ける側・する側のそれぞれの視点からOJTのメリットを確認していきましょう。

教えられる側

指導を受ける立場から見たOJTの主なメリットは、実務を通してスキルや知識を習得できる、的確なフィードバックを得ることができる、PDCAが回しやすいの3点が挙げられます。

OJTでは、実際の業務に取り組みながら指導担当者からマンツーマンでスキルや知識が学べるとともに、具体的なフィードバックを定期的に受けることができるため、スピーディな成長が期待できます。また、定期的なフィードバックが得られるということは、PDCAを回しやすいことでもあります。

上司や先輩からの指導やアドバイスだけでなく、自身でもPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を継続的に実行していくことが容易となるので、改善すべき部分や足りない部分がより明確になっていくはずです。

これにより、短期間で第一線で活躍できる人材に成長することができるでしょう。

教える側

指導する立場から見たOJTの主なメリットは、指導経験を積む良い機会になる、指導を通して自身の業務を見直せる、責任感が養われるの3点です。

OJTでは、教えられる側はもちろん教える側も試行錯誤しながら取り組まなければなりません。例えば、「どのように教えれば分かりやすいか」、「コミュニケーションを円滑にするにはどうしたら良いのか」といった点を考えながら取り組んでいく必要があるため、指導者として良い経験を積むことができます。

加えて、自分自身の業務の目的やあり方を見つめ直す機会にもなりますし、新入社員や部署異動してきた従業員を指導するという重要な役割を担うことで責任感が生まれるのもメリットと言えます。

OJTの指導で得た経験や責任感は、将来的にチームリーダーやマネージャーなどの管理職に就いたときに活かされるはずです。

OJTのデメリット

上記の通り、OJTには指導を受ける側・する側の双方にメリットがある指導方法です。一方で、デメリットについても双方にあるので十分に理解しておくことが大切です。

教えられる側

指導を受ける側から見た主なデメリットは、指導担当者の質が成長速度に影響する、体系的に学ぶことができない、業務に直結するスキル・知識の習得に留まるの3点が挙げられます。

マンツーマン指導が基本のOJTでは、指導担当者の能力や意欲によっては思ったように成長できない恐れがあります。誰が指導担当者になるのかにより、自身の成長速度が変わってくるのはデメリットと言えるでしょう。

また、成長速度に影響を及ぼすだけでなく、場合によっては成長が遅いことを責められることがあるかもしれません。加えて、担当者は自身の業務を行いながら指導を行うため、指導が途切れ途切れになることも多く、体系的に学ぶのには向いていません。

学べるスキルや知識も実践に必要なものが中心となるので、業務に対する考え方やマナーなどが疎かになってしまう傾向もあります。

教える側

指導する側から見た主なデメリットは、教育計画作成などに手間がかかる、自身の業務が滞る可能性がある、育成責任を負うの3点です。

OJTの指導担当者になると、指導対象者に対してどのような指導を行うべきかを計画する手間がかかります。特に、新入社員に対してはゼロベースからの指導となるので、一時的ではありますが担当者にかかる負担は相当大きくなります。

指導がスムーズに進まないと、自身の業務にも影響が及ぶ可能性もあり、就業時間から漏れた業務がそのまま残業になるケースもあるでしょう。場合によっては、OJTを進めること自体も困難になる可能性もあるので、企業側としては指導担当者の負担を軽減するためのサポートを徹底することが大切です。

また、人材育成を担う責任を負うことになるのも、人によっては大きなデメリットとなるでしょう。

OJTとOff-JTの特徴の違い

OJTとよく比較される育成手法にOFF-JTがあります。

OFF-JTとは「Off The Job Training」の略で、実務の場を離れて行う教育施策を指します。職場外研修とも呼ばれる手法で、OJTとは異なり特別な場所や時間を設けて開催するのが一般的です。

OJTが実際に業務を行いながら学ぶアウトプット型の育成手法であるのに対し、OFF-JTはテキストやマニュアルなどを活用して学ぶインプット型の育成手法という違いもあります。

加えて、OJTでは上司や先輩社員が指導担当者を担いますが、OFF-JTでは外部から講師を呼ぶケースもあります。

OJTとエルダー制度の違い

エルダー制度とはOJTの一種で、上司ではなく比較的年齢が近い先輩社員が指導担当員として、新入社員を教育する育成手法です。

企業によっては、OJTリーダー制度やブラザー制度・シスター制度などとも呼ばれています。OJTでは転職者や他部署から異動してきた社員なども指導対象となるとともに、上司が指導担当者になるケースもありますが、エルダー制度は新入社員のみが指導対象で、上司は指導担当者になることはありません。

エルダー制度は年齢が近い先輩社員が指導を担当することで、新入社員が業務や職場での人間関係などの悩みを相談しやすい環境を構築できるというメリットがあります。

OJTとメンター制度〔メンタリング〕の違い

メンター制度とは、先輩社員(メンター)が新入社員をはじめとした若手社員に対して、精神的なサポートを行う制度です。

人材育成手法のメンタリングを職場に導入した制度で、先輩が後輩を指導したりアドバイスしたりする点はOJTと共通しています。しかし、OJTが実務を通して業務に必要なスキルや知識を教えていくのに対し、メンター制度は人間関係やプライベートなど業務に関係ない内容の相談にも乗るという違いがあります。

さらに、OJTでは基本的に同じ部署・チームの先輩や上司が指導しますが、メンター制度では他部署の先輩社員が指導やアドバイスをすることも少なくありません。

OJTの進め方

OJTは場当たり的に実施しても成果につながりにくいため、あらかじめ計画を立てて進めていくことが大切です。ここからはOJTの進め方をPDCAに沿って解説していきます。

1.育成計画の策定

OJTでは、指導対象者にどのような業務をどのタイミングで経験させるのかが重要となるため、事前に育成計画をきちんと策定することが大切です。

育成計画はPDCAにおけるPlan(計画)に該当しますが、ここでは対象者にOJTを通してどのような人材になってほしいか、どのような業務ができるようになってほしいかといった目標を定めます。
そして、目標を達成するために必要となるスキルや知識、経験を明確化していきますが、同時に育成対象者の現状を把握することも大切です。対象者がどのような能力を持っているのかによって指導内容は大きく変わってくるので、事前にヒアリングを行って育成対象者が持つ能力を把握しておきましょう。

ヒアリングでは対象者の性格についても確認しておくと、効率的な育成につながっていきます。
最後に目標と対象者が持つ能力から、どのような業務をどのように与えて指導していくのかを検討します。

指導内容が定まったら、いつまでに目標を達成すべきかも含めて全体のスケジュールを構築していきましょう。

2.実践・指導をする

育成計画を策定したら、PDCAにおけるDo(実行)に該当する実践・指導を行っていきます。ここでは、4段階職業指導法の「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・追加指導)」に基づいて指導を進めていきましょう。
ここでのポイントは、最初は基本的で難易度が低い業務から始め、徐々に応用的な業務を与えていくことです。

指導の効果が実務で発揮させるまでには一定の時間を要するので、反復的に基本的な業務を繰り返し行い、基本がある程度習得できたら難易度が高い業務を少しずつ与えていくのがセオリーとなります。

特に育成の初期段階において、いきなり対応が難しい業務や過度なプレッシャーがかかる業務を与えると、自信を喪失してしまいモチベーションの低下を招く恐れがあるので注意が必要です。逆に、OJTを通して成功体験を積み重ねることができれば、自信やモチベーションが高まって主体的に業務に取り組める人材への成長が期待できます。

3.評価をする

続いて、PDCAにおけるCheckに該当する評価(フィードバック)を行っていきます。

4段階職業指導法にもCheck(評価・追加指導)の項目がありますが、OJTでは4段階職業指導法のCheckに加えて1日1回、もしくは1週間に1回ほどのペースで育成対象者へのフィードバックを行っておくのが理想です。具体的な内容としては、育成計画で設定した目標やスケジュールと照らし合わせながら、「できたこと」「できなかったこと」をベースに「できるようになるには何をすべきか」を指導担当者と指導対象者で確認し合います。
加えて、現場では難しい指導やアドバイスも行っていくとともに、指導対象者が抱える悩みや疑問に対応するなどメンタル面でのサポートも行っていくと効果的です。

なお、フィードバックでは「できなかったこと」だけを指摘しがちですが、「できたこと」や「維持すべきこと」についても言及して、研修対象者がポジティブな気持ちで次回以降の研修に取り組めるようにすることが大切です。

4.次回の研修に向けて

OJTの最後のステップは、次回以降の研修に向けた振り返りです。PDCAにおけるAction(改善)に該当する工程で、ヒアリングを通して取り組んだ業務が成功したか、失敗したかを確認させた上で、その理由や原因を考えさせます。加えて、次に同じ業務に取り組む際に活かせる経験があったかどうかも確認させることも大切です。

この振り返りを行うことで、次に同じ業務を行う際に成功する確率を高めることができますが、指導担当者には適切なフィードバックを行って指導対象者の気付きを促すことが求められます。この工程で得られた気付きはOJTの質を高めるだけでなく、将来的に取り組むことになる他の業務にも役立つはずです。
また、振り返りを行った後は、育成計画の見直しや新たな目標を設定します。

習得できなかったスキルや知識があった場合は育成計画の変更や改善を行い、育成計画で設定した目標を達成できた場合は新たな目標を立てた上で、再び育成計画立案からスタートしてPDCAを回していきます。

OJTリーダーに必要なスキル

OJTリーダー(指導担当者)は、指導対象者の将来を左右すると言っても過言ではない重要な役割となりますが、最後にOJTリーダーに必要なスキルを解説していきます。

1.ストレッチ目標を取り入れる

ストレッチ目標とは、その人が少し背伸びして頑張れば達成できそうな難易度の目標のことです。

目標は簡単すぎるものでは成長が見込めず、難しすぎるものではモチベーションを維持するのが困難になりますが、努力や工夫次第では手が届きそうな難易度の目標は成長が促されるとともに、モチベーションが刺激されて達成しやすくなるという特徴があります。

ストレッチ目標を設定し、徐々に難しい課題をクリアしていくことで最終的な目標にも到達しやすくなるので、OJTリーダーには指導対象者の能力を見極めた上で適度な難易度の目標を設定するスキルが求められます。

2.コーチングの意識

コーチングとは、会話や質問を通して対象者に新たな気付きを与えて、成長や自発的な行動を促すコミュニケーション手法を指します。

「答えは相手の中にある」という考えを前提とした手法で、目標達成に必要な行動や考え方を引き出すことができます。上司や先輩社員が指導を行うOJTとは異なる概念ではありますが、OJTリーダーがコーチング意識を持つことは非常に重要です。

特に、振り返りの際に一方的に指導やアドバイスをするのではなく、会話や質問により対象者自らが問題や課題を発見し、その解決に向けて取り組んでいくことを促すことができれば成果につながりやすくなります。

3.やりがいの共有

仕事に対する楽しみややりがいを共有することも、OJTリーダーの重要な役割のひとつです。特に、新入社員は慣れない業務や初めての環境に戸惑いながら指導を受けているケースが多く、思ったような成果が出ずにモチベーションの低下を招くこともあります。

このような時にOJTリーダーが積極的に仕事の楽しさややりがいを伝えることができれば、業務に取り組むモチベーションや成長速度の向上が期待できます。

新入社員は自信を持たせることで成長速度が飛躍的に高まるので、OJTリーダーは指導対象者の行動や言動を観察し、適切なコミュニケーションで自信を持たせていくことが大切です。

まとめ

多くの企業で採用されているOJTは、指導を受ける側・すぐ側の双方にメリットがある人材育成手法です。

効率的に即戦力を育成できる一方で、指導担当者の質が成長速度に影響を及ぼしたり、指導担当者の負担が大きくなったりするといった問題点もあります。そのため、OJTに取り組む際は組織全体で指導の基準化を図るとともに、指導担当者の負担を軽減するためのサポートをしていくことが大切です。

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