秘密保持契約とは?その重要性や作成・締結の流れ、ポイントなどを徹底解説

最終更新日 : 2020-10-29 Box

新しい取引先とビジネスを開始する場合、様々な契約を結ぶことになりますが、その中にひとつがNDA(秘密保持契約)です。

個人情報などの秘密情報の扱い方が重要視される現代において、NDA(秘密保持契約)の重要性は日増しに高まっています。

しかし、NDA(秘密保持契約)がどのような契約なのかを十分に理解できていない方も多いかと思います。

そこで、ここではNDA(秘密保持契約)の概要とともに、締結までの流れや契約書作成のポイント、注意点などについて解説していきます。

秘密保持契約とは?

NDA(秘密保持契約)とは、Non-Disclosure Agreementの略語です。取引先とビジネスを行う上で知った相手方の秘密情報を取引の目的で利用したり、他社に開示・漏洩したりするのを禁止するために結ばれる契約のことを指します。

ビジネスを進めるに当たり、自社の重要な情報を開示する必要があるケースでは、事前にNDA(秘密保持契約)を締結するのが一般的です。

例えば、他の企業との共同開発を行う場合や、外部にシステムや製品の開発を委託する場合、事業の譲渡やM&Aをする場合に締結されます。

つまり、自社の秘密情報を開示しなければビジネスを進めることができない場合に締結されるのがNDA(秘密保持契約)ということです。

秘密保持契約はなぜ必要なのか

自社の重要な情報を開示しなければ、ビジネスを進めることができないケースは少なくありませんが、開示した秘密情報が本来の目的以外で使用されたり、第三者に漏洩したりするリスクがあります。そのため、情報開示する相手側に秘密保持義務を負わせるNDA(秘密保持契約)を結び、自社が抱えるリスクを少しでも軽減することが重要です。

また、NDA(秘密保持契約)の締結が特に重要となるのは、相手側に開示する情報が特許申請に関わるものであった場合です。特許法第29条では、公知になった発明は特許を受けることができないと定められています。特許法における公知とは、守秘義務のない者が、技術的にその内容を理解したことを指します。

そのため、NDA(秘密保持契約)を結ぶことなく、相手側に特許申請に関する情報を開示してしまった場合、公知となった発明と見なされて特許を取得できない恐れが出てきます。特許取得ができなくなってしまうと多大な損害を被ることになるため、NDA(秘密保持契約)の重要性は非常に高いと言えるでしょう。

加えて、NDA(秘密保持契約)が不正競争の防止に有効となるケースもあります。例えば、自社が保有する情報が漏洩したことにより、他の企業が類似の製品やシステムを開発したとしても、NDA(秘密保持契約)を締結しておけば、漏洩した情報が不正競争防止法における営業秘密であると認められて、損害賠償請求や差し止め請求ができる可能性が高まります。

秘密保持契約の作成から締結までの流れ

ここまで、NDA(秘密保持契約)の概要とその必要性について解説してきましたが、NDA(秘密保持契約)はどのような流れで締結されるのでしょうか。ここからは、秘密保持契約書の作成から契約締結までの流れについて解説していきます。

ドラフトの作成

NDA(秘密保持契約)を締結する最初のステップは、ドラフトを作成することです。ドラフトとは、契約書の原案・草案・下書きのことを指します。
秘密保持契約書は、どちらかの企業が一方的に作成するものではなく、情報を開示する側と開示される側の両者で協力しながら作成していきます。しかし、その原案であるドラフトは業務受託契約の場合は受託側、業務提携などの場合は経営規模が大きい方の企業が作成し、相手方に提示するのが一般的です。

契約内容の協議

ドラフトが完成し相手側に提示された後は、契約内容の協議に移ります。秘密保持契約書作成のポイントは後述しますが、この段階でお互いの認識を一致させておかないと、何らかの問題が発生した際に「言った」「言わない」で揉めてしまう恐れがあります。

また、NDA(秘密保持契約)を締結する場合、情報の開示側は秘密情報を可能な限り守れる内容にしたいと考え、情報を開示される側はできるだけ制限を少なくしたいと考えるのが一般的です。そのため、契約内容は十分な協議を重ねた上で決めていくことが大切で、互いが納得できる妥協点を探して行く必要があります。

なお、NDA(秘密保持契約)は非常に強い効力を発揮する契約であるため、この段階で疑問に思ったことは躊躇せずに解消しておくことが重要です。

契約書の捺印・締結

お互いに納得できる契約内容であることが確認できたら、実際の契約書を作成します。契約書はお互いに一部ずつ保有できるように全体で二部作成して、契約当事者がそれぞれ署名・捺印をしたら契約締結が完了します。

なお、契約書が複数ページになってしまった場合は、ページのつなぎ目にそれぞれの契約当事者が契印をして、契約書が1つの連続した文書であることを明確にしておくことが大切です。また、相手方が実印と角印の両方を使用している場合、相手に合わせた方が良い印象を与えることにつながるため、実印と角印の両方を押しておくと良いでしょう。

ちなみに、近年は電子ファイル化した契約書をインターネット上で交換して、電子署名をすることで契約を締結する電子契約によって、NDA(秘密保持契約)を結ぶケースも増えています。

秘密保持契約書作成の際のポイント

次に、秘密保持契約書を作成する際のポイントについて確認していきましょう。秘密保持契約書を作成する際は、様々な点に注意を払う必要がありますが、ここでは最低限押さえておきたい4つのポイントを解説していきます。

締結日はいつか

NDA(秘密保持契約)の締結日は、自社の秘密情報を開示する前とするのが基本です。NDA(秘密保持契約)を締結する前の商談中に秘密情報を開示してしまい、その商談がビジネスにつながらなかった場合、秘密情報を相手に開示しただけとなってしまいます。そのため、NDA(秘密保持契約)の締結前に秘密情報を開示しないようにすることが大切です。

具体的なビジネスの話が進んでいないにもかかわらず、NDA(秘密保持契約)の締結を提案するのは難しいと感じるかもしれませんが、自社が抱えるリスクを最小限に留めるためには提案を躊躇ってはいけません。もしも、契約締結に難色を示された場合は、そもそも取引先として相応しくないと割り切ることも必要です。

情報開示の目的

NDA(秘密保持契約)を結ぶ場合、情報を開示する側は秘密情報を幅広く守りたいと考えますが、一方で情報を開示される側は秘密保持の範囲を可能な限り狭めたいと考えるのが一般的です。リスクを背負うことになるのは情報を開示した側であるため、もしも情報開示側になった場合は情報開示の目的を明確にしておく必要があります。

例えば、本来は「新製品を共同開発できるか否かを検討するため」に情報開示をするつもりが、契約内容が「新製品の開発を検討するため」となっていた場合、相手側の企業が単独で新製品を開発する際にも自社が開示した秘密情報を利用できることになってしまいます。したがって、秘密保持契約書を作成する際は、秘密情報の利用目的を細かく定めて、相手側が秘密情報を利用できる範囲を明確にしておくことが重要です。

秘密情報が特定されているか

NDA(秘密保持契約)を締結することで守られる情報は、契約内容で秘密情報と定義されたものだけです。秘密情報と定義されていない情報に関しては、相手側にどのように扱われるか不明なので、秘密保持契約書を作成する際は守りたい情報が秘密情報として定義されているのかを十分に確認しておくことが重要となります。

また、秘密情報の定義はある程度幅を持たせておく必要があるため、開示された情報が秘密情報であるか否かで相手側と揉めてしまうケースも考えられます。したがって、自社が秘密情報を開示する側になった際は、開示する情報が秘密情報であることをメールや書面に明記しておくことが大切です。

秘密保持期間

秘密保持契約書を作成する際は、秘密保持期間を適切に定めることも重要です。秘密の保持期間は、開示される情報の重要性や気密性が高ければ高いほど長くなるのが一般的ですが、秘密保持契約書の作成時に保持期間を適切に定めておかないと後々のトラブルにつながる恐れが高まってしまいます。

また、情報を開示する側は秘密保持期間ができるだけ長い方が好ましいと考え、開示される側は保持期間が短い方がリスクが少ないと考えます。このように、秘密保持期間についての考え方は情報を開示する側とされる側で大きく異なるため、協議を重ねてどの程度の期間が適切なのかを決めることが大切です。特に、情報を開示される側になった場合、十分に協議を重ねないと永久に秘密保持をしなければいけないことになる恐れもあるため注意が必要です。

経済産業省が公開している「NDA(秘密保持契約書)ひな形」

現在、秘密保持契約書のひな形やテンプレートはネットで検索すれば簡単に入手することが可能ですが、経済産業省が作成した「秘密情報の保護ハンドブック」の「参考資料2 各種契約書等の参考例」もその中のひとつです。この中で企業間で締結するNDA(秘密保持契約)に利用できるのは、「業務提携の検討における秘密保持契約書」「取引基本契約書(製造請負契約)」「業務委託契約書」「共同研究開発契約書」の4種類です。

これらは有識者によって作成されたひな形なので、秘密保持契約書を作成する際の参考にすると良いでしょう。

秘密保持契約の注意点

最後に、NDA(秘密保持契約)の注意点について確認していきましょう。NDA(秘密保持契約)は、秘密情報の開示によって生じるリスクを軽減するのに効果的な契約ではありますが、決して万能な契約ではないため注意が必要です。

いつまで締結するべきかを確認する

上記の通り、自社が持つ秘密情報を開示する必要がある場合は、開示前にNDA(秘密保持契約)を締結することが大切です。相手方との商談が盛り上がってしまい、その勢いで秘密情報を開示してしまったものの、結局はビジネスにつながらずに相手方に秘密情報を開示しただけとなってしまったという失敗は決して珍しくありません。そのため、NDA(秘密保持契約)の締結前は、たとえ商談が盛り上がったとしても秘密情報を開示しないように十分に注意を払う必要があります。
ただし、NDA(秘密保持契約)の締結前に情報を開示してしまった場合でも、契約書の中に「本契約は締結日にかかわらず、〇年〇月〇日に遡及して発行するものとする」といった文言を入れることで、NDA(秘密保持契約)の締結前に開示した情報を守ることが可能です。

漏洩、不正利用の危険性

NDA(秘密保持契約)は、自社の秘密情報を守るのに欠かすことができない契約です。しかし、NDA(秘密保持契約)を締結していたとしても、相手側が秘密情報を漏洩したり不正利用したりする可能性はゼロではありません。そのため、情報を開示する側になった場合は、NDA(秘密保持契約)を締結したからと言って安心できるわけではないということを念頭に置いておく必要があります。

一方、自社が情報を開示される側になった場合は、秘密情報に触れる可能性のある従業員に対して契約内容を周知徹底させることが重要です。秘密情報の取り扱い方についての研修を実施したり、従業員と個別にNDA(秘密保持契約)を締結したりするのがベストですが、これらが難しい場合でも秘密情報の定義や管理方法については周知させておきましょう。

情報漏洩した場合の損害賠償

NDA(秘密保持契約)を締結後に情報漏洩などの契約違反があった場合は、民法第415条の債務不履行に基づいて損害賠償請求を行うことが可能です。ただし、民事訴訟においては、原告側が契約違反によって生じた損害額を立証する必要がありますが、損害額の立証は困難なケースが多いということを覚えておきましょう。なお、あらかじめ解約違反が発生した際の賠償額や、その上限を定めておくことも可能ですが、あまりにも高額な金額を設定すると裁判の際に公序良俗違反として無効にされる可能性もあるため注意が必要です。

また、損害賠償請求では賠償金額よりも、損害賠償の範囲の方が重要です。情報を開示する側の場合は、「債務不履行に起因もしくは関連して生じた損害」といったように損害賠償の範囲を広く設定した方が有利となります。一方、情報を開示される側の場合は、「予見の可能性にかかわらず特別な事情により発生した損害は含まない」といったような文言を記載して、損害賠償の範囲を狭めておくことが大切です。

秘密保持契約まとめ

NDA(秘密保持契約)は、秘密情報を開示する際に欠かせない契約です。もしもNDA(秘密保持契約)を締結せずに秘密情報を開示してしまうと、情報漏洩や不正利用などにより多大な損害を被る恐れがあります。

NDA(秘密保持契約)を締結したとしても、情報漏洩や不正利用のリスクをゼロにすることはできませんが、相手側に契約違反があった場合は損害賠償請求を行うことが可能です。

また、秘密保持契約書を作成する際は、協議を重ねることで双方の認識を一致させておくことが重要です。

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